第6回バイオフィリア・リハビリテーション研究会
学会長挨拶



木村哲彦

(日本医科大学) 

Community Rehabilitation Network(CRN) の推進
21世紀のリハビリテーションをめぐる諸情勢に思いをめぐらせて

 長寿・高齢化の進む社会を予測し,昭和53年より国は第一次健康増進を旗印に動きを始め,昭和63年には第二次施策としてアクティブ80ヘルスプランを掲げ,さらに平成12年1月には「健康日本21」の旗印の下に多くのイベントが催され,テレビ,新聞等の媒体を通して健康増進に関わる報道も増加している.

 健康寿命を延長させるには,先ず疾病・障害の予防,次いで治療そしてリハビリテーションによる自立,早期社会復帰と社会参加を果たすことである.現在,日本人女性は生物学的寿命の尽きる前,平均1年半以上の介護を受けており,男性も同じく4~5月の間は他人による介護を受けている.

 治療医学の発達発展は誰しも認識するところであるが,高齢化が進むにつれて,益々増加の一途を辿っているのが脳血管障害による片麻痺及び骨粗鬆症が間接的な原因となっている大腿骨頸部骨折と脊椎圧迫骨折である.脳血管障害については,治療医学の進歩により三大死亡原因の中では致命率は下がりつつある.しかし障害を残して治癒する者も増加し,寝たきり障害老人の多くを占める結果になっていることも事実である.大腿骨頸部骨折については人工関節・人工骨頭等の機材の発達と手術手技の進歩等により,後期高齢者についても安全に手術が施行できるようになった.

 しかし,脳血管障害であれ,大腿骨頸部骨折であれ,一旦障害を持つに至った高齢者を,リハビリテーションの重要性を認識した上で訓練プログラムに載せることの困難さは容易なことではなく,殆どリハビリテーション専門職である理学療法士と1:1で訓練する以外に方法はないと考えられている.また,現在の健康保険制度下では急性期には比較的高額の診療報酬が支払われるが,入院期間には極めて厳しい制限が設けられ,長期間の入院が困難である現状にある.

 高齢者医療にかかる診療費の激増のみを捉えても,医療経済学的に国民的課題になっていることも事実である.高齢者のリハビリテーションサービスについては,時間を要することが多く,医療機関内に於いては機能的予後予測に従って日常生活に適応させるための十分な訓練をする訳ではなく,許された入院期間内に出来るところまで訓練すると言う姿勢のリハビリテーションが日常化し,患者は療養型病床群を持つ医療機関に転出するか,介護老人保健施設に移る以外にない.例え病院に於ける評価で漸くADL自立の評価が下されたとしても,多くの障害老人は最大限の努力で動作を達成した場合が多く,自宅で日常的に実用化出来るということとは極めて大きなギャップのあることを知るべきで,習熟の為の時間は高齢化すればするほど多く必要になる.自宅に退院した途端に訓練が継続されず,歩行を含めたADLが元に戻ってしまう,すなわち再度の「寝たきり老人」に向かっている症例があまりにも多い.

 「評価によって,出来るADL」から「日常化しているADL」までをADLのゴールと考えるべきであり,医療の分野でこれを果たせないのであれば,地域の総力を挙げて解決に当たらなければならない.リハビリテーションを効果的に進めるには,人的資源,場所,そして訓練機器の活用であろう.人的な問題は,訓練技術の問題もあろうが,高齢障害者である患者・利用者の意欲を鼓舞することの重要な意味を持っている.

 医療経済的問題も含め,慢性期に至った者に1:1の訓練が不可能であると言う前提に立てば,機器の導入が選択肢として優先度が高い.筋肉のトレーニング効果,バランス訓練の効果は例え高齢者であっても瞬発力の訓練効果以外は期待できるものであり,それに関する多くの報告を認める.障害発生予防の段階から,医療機関内における治療の段階ではこの理論は活かされてはいるものの,急性期以降のリハビリテーションの段階に至り,訓練の路を閉ざされたとすると,高齢者にありがちな意欲喪失が災いして放置される結果になり,廃用症候群に拍車をかけることが多い.急性期に原則に則ったリハビリテーション治療が成されているならば,地域で継続することの可能性を高め,リハビリテーションを中断させないことがCRNの待たれる所以に違いない.

 21世紀のリハビリテーションは,健康寿命を可能な限り後押しして「介護期間を限りなくゼロに近づける」ことに他ならない.本学会の目指すところの究極は,リハビリテーションと言う一つの目標に向かって思いを一とする者が叡智を絞って方策を創造し,検証し,普及させることである.