神経・筋促通法の回顧と新たなる挑戦

  

大会長挨拶
福井 圀彦

湘南健友会介護老人保健施設湘南の丘施設長
バイオフィリア リハビリテーション学会名誉会長

 神経・筋の回復と可塑性については、この50年ばかりの間に偉大な進歩を遂げており、リハ領域でもその理論は脳・脊髄-筋疾患にたいして愛用されるようになった。私が神経・筋-促通学を学び始めたのが昭和35~40年代であったからすでに40年ばかりが経過している。

 片麻痺患者を例に40年昔と現在と比べてみてどうであろうか? 神経・筋促通法の理論や手技が長足の進歩を遂げた今日、さぞや片麻痺の改善はよくなっているかと思って診察をすると、これが昔とほとんど変わっていないのである。言いかえれば神経筋促通法が利いているという感じを受けないのである。 

 どこかで何かが間違っているのではないか? 単純な関節、筋運動の積み重ねとみていたリハ運動学が、神経細胞、ニューロン、シナプス、筋などで構成される複雑なネットワークによってコントロールされている一種の美学に魅せられて、大事なものを見落としていたということはないだろうか?
考え直して検討してみてはどうであろうか?

 例えば、患側優先で行っていた神経・筋促通法を健側優先に切りかえるのではどうだろうか?

 日本でもいち早くそれに気付いてよい成果を挙げている先人も何人かいたのであるが、オーソドックス派からは、総反撃をくらった歴史があるし、今でも残っている。

 患側優先で行うメリットは、確かに総合的な協調運動を円滑に行い、運動パターンの正常化には好都合であるが、デメリットとして実用につながるまでに時間がかかり、その間に健側・躯幹の廃用をきたすことにあった。しかし、健側優先の神経・筋促通法では患側優先の場合よりも健側であるため放電による促通の効果が大きいとみられ、途中で廃用状態で臥床継続状態になってしまうは少なく、多少格好は悪くても実用につながる可能性が大きくなる。

 老人では格好よりも実用である。多少格好は悪くても実用を取って介護予防に努めるべきであろう。
 今回はこのあたりをもう一度振り返って検討してみたいと考える次第である